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カテゴリ:物語( 1 )

魚の涙。

気づいたらある日、魚になっていました。

本当は鳥のほうがよかったけれど、でも、まあ海もなかなかキレイな場所ですし、
魚も悪くはないと思いました。

スイスイ泳いでいる途中、サンゴの岩陰で出会った赤い魚が、
「おいしそうなエサを垂らした、あの釣り人に気をつけて」と忠告してくれました。
「君を捕まえて法外な値段で売り飛ばす気なんだから」と。

彼はこのあたりで一番賢い魚のようです。

わたしは必死で、釣り人のいない方向へ泳ぎました。

たどり着いた浜辺の松の木に、青い小鳥が止まっていました。
わたしを見るなり、さえずりを止めて、こう言いました。

「吝嗇な村人に気をつけて。少ないエサしか与えずに、あなたを見世物にするつもりなのよ」と。

わたしはもうちょっと青い小鳥の歌が聴いていたかったけれど、
慌てて旅立ちました。そして必死で泳ぎ、無人島へたどり着いたのです。

卑しい釣り人も吝嗇な村人もいない平和な海。
清らかな風が吹き、空には美しい月が輝いて、水面もきらめいていました。

「もう誰かに捕まることはないんだ」

ホッとしたわたしは尾びれをうんと伸ばし、気ままにあたりを泳ぎました。
思いきり「自由万歳」と叫びました。
おなかいっぱい、エサも食べました。

誰ひとり邪魔する者はいないし、「うるさい!」なんて言わないのです。
なんて幸せなのだろうと思いました。

けれど、ふと思ったのです。

「ああ、赤い賢い魚はどうしているかな? 青い小鳥は素敵な声で歌っているかしら?」

そんなことを考えていたら急に寂しくなってきて、
えーんえーんと声を上げて泣きました。

けれども、聞こえてくるのはザブンザブンという波の音だけ。
誰もなぐさめに来てくれません。

「やっぱり帰ろう。みんなのいる場所に帰るんだ」

わたしは決めました。
そしていま来た道をまっすぐに、泳ぎ始めたのでした。



「吝嗇(りんしょく)」という言葉から、こんな物語が浮かびました。

スキな人もキライな人も苦手な人も。
いろんな人が自分を作る要素のひとつで、何かしら「気づき」を与えてくれる存在なんだと思います。
そしてそういう人たちと関わりながら、生きていくのが人生なんですよね!

……なんて。日々、言い聞かせているわたしです(笑)。
by youyounote | 2012-09-25 23:53 | 物語 | Trackback

熊本出身・東京在住のライター・作家、高倉優子の仕事や日々のこと。エンタメ系インタビュー、エッセイ、書評等を執筆。著書に児童書『学校犬バディ いつもいっしょだよ! 学校を楽しくする犬の物語』(角川つばさ文庫)がある。読書会「東京女子書評部」を主宰。野菜ソムリエや、全日本あか毛和牛協会認定「あか牛大使」としても活動する。youyounote@yahoo.co.jp


by 高倉優子