写真集「はたらくことは生きること」。


とても素敵な写真集と出合いました。

アマチュア写真家の石田榮(いしだ・さかえ)さんによる
『はたらくことは生きること』(3600円+税、羽鳥書店)。

昭和30年前後の高知で、石田さんが
「働く人びと」の姿を撮影したクロニクルです。


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▼背表紙。浜で綱をたぐる女性たち。

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写真集のなかに、こんな説明文ががありました。

「石田榮は、敗戦後、海外引揚者から譲り受けた
カメラで写真と出会った。
働いて日々を生き抜くなかで、休みの日、
カメラを片手に
日曜日でも体を張って働く
一次産業の人びとへ会いに通った。」

写真集をめくってすぐの見開きページに、
海岸にいる人々の姿が飛び込んできました。

男性ひとりはふんどし姿。
漁に使うであろう木材でできた道具をかつぎ、
その傍らには、
妻とおぼしき女性がはにかんでいる。

※後ろのページに注釈があり、この木製の道具は、
船をつないでおくための「轆轤(ロクロ)」
だということがわかりました。

もうひとりの男性も家族でしょうか? 

後ろ姿から初老の頃に見えますが、
贅肉のない引きしまった体躯から
彼もまた「働く人」ということがわかります。

さらに遠くに、浜に座って作業をしている
男性の姿も写っています。

この写真を見た瞬間、わたしはただただ
「なんて美しいのだろう」と思いました。

贅肉のない「働く人の体」も美しいし、
はにかんでいる笑顔も美しい。

採石場や、畑や、田んぼや、あぜ道や、浜で
働いている人びと。

どの写真の写る人もみな、生き生きとしていて、
こちらもつられて笑顔になるような
いい表情をしています。

一次産業の仕事が
大きな割合を占めていた時代とはいえ、

現代ならば「3K」と呼ばれるような
重労働をしているのに、です。

彼らにとって、「働くことは生きること」であり、
しごく当たり前のことだったことが伝わってきます。

誰かから搾取するのではなく、
自分の手と、足を動かして、正直にお金を稼いでいた。

そのことが伝わってくるから、
まぶしく、いっそう美しく思えるのでしょう。

また、彼らが飾らない「素」の表情をしているのが素晴らしい。

それはきっと石田さんの気さくなキャラクターと、
石田さんが彼らと同じ目線に立って
親しみを込めて撮っていたからではないか……。

そんなことを思いながらページをめくりました。

たとえば高名な写真家が「この時代を記録しよう!」と高尚な動機で撮っていたら、
まったく違ったものになっていたはずです。

本書のなかには、石田さんが書かれた「私の写真人生」という
エッセイも収録されていますが、

「撮影で気を付けたこと」が記されていました。

「撮影に際しては、一人で行き、
同じ労働者であるという仲間意識を大切しました」

ああ、やっぱり。 
「そういう工夫をなさっていたんだ!」と納得しました。


ちなみに、石田さんは1926年(大正15年)生まれ、
御歳90歳です。

▼下記に、プロフィール写真を転載しました。
なんと素敵な笑顔でしょう! 

年齢を重ねると、人柄が表れた顔になるといいますが、
石田さんはきっと
豊かな人生を送ってこられたのでしょう。

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戦時中、高知海軍航空隊の
航空機整備兵だったという石田さん。

巻末にはその体験談もつづられています。

そう! この写真集は読み物も充実しているのです。

写真の部分で、当時の人たちを「感じ」、
文章の部分で歴史や事実を「知る」。

そんな丁寧な作りなのです。

単に「日本人の心は豊かだった」「昔はよかった」
などというセンチメンタリズムに終始せず、
いい意味で淡々と、けれど丁寧に事実を伝えることで、
わたしたちに「考える」余地をくれる。

そんな「余白」もこの写真集の魅力です。

わたしは、ずっとずっと昔に、
鬼籍に入った祖父母のことを思い出しました。

祖父母もまた農業に従事していたのですが、
わたしが物心つく頃には隠居していたため、
現役バリバリで動いている姿を見たことはありません。

でも、きっとこんな風に
働いていたんじゃないかと思えたのです。

仲間や家族と助け合って、懸命に。
けれど喜びを持って働いていたのだろうな、と。

ページをめくるたび、涙があふれました。
それは、悲しかったからではありません。

もう2度と会うことができない祖父母と、
思いがけず再会できたような気がしたからです。

嬉しい、嬉しい、再会でした。


これは高知県が舞台ではあるけれど、
戦後の日本を支えた日本人の真の姿なのだと思います。

彼らの真摯なまなざしが、
「どんなに世知辛い世の中であろうと
しっかり働き、たくましく生きてゆけ!」と
エールを送ってくれている、そんな気がするのです。

これからも折に触れ、
この写真集のページをめくりたいと思います。

激動の時代を生き抜き、豊かな日本の礎を築いてくれた
ささやかな市井の人たちを思い出すために。

何度でも、祖父母と再会するために……。

そして、こんな風にも思いました。

「生きるために働く」のではなく
「元気に働けることは幸せなことなんだ」。
そんなスタンスで生きていけたらいいな、と。



またひとつ、大事な宝物が増えました。
とても嬉しいです。

最後になりましたが、この写真集を豊かな感性と並々ならぬ情熱で作り上げ、
わたしにご紹介くださった
デザイナー&アートディレクターの長尾敦子さんに
感謝の気持ちを贈ります。

また、「レガシー」と呼ぶべき、尊い写真のかずかずを
撮影し、こうしてわたしたちに見せてくださった
石田さんに、心からの拍手を送りたいと思います。

素晴らしいこの作品が、
ひとりでも多くの方の手に届きますように。

そのことをただただ、願ってやみません。

特設の応援サイトはこちらから。https://ikirukoto.tumblr.com/



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by youyounote | 2016-11-02 15:20 | コラム | Trackback

熊本出身のライター・作家、高倉優子の仕事や日々のこと。エンタメ系インタビュー、エッセイ、書評等を執筆する。著書に児童書『学校犬バディ いつもいっしょだよ! 学校を楽しくする犬の物語』(角川つばさ文庫)がある。読書会「東京女子書評部」主宰。アンアンウェブ 公式アンバサダー。「本棚ダイアリー」連載中。youyounote@yahoo.co.jp


by 高倉優子